最終更新日:2008/11/24(月) 18:38:06
論文「19世紀後半の日本における近代国際法の適用事例」
書誌情報
- 名称:
- 一九世紀後半の日本における近代国際法の適用事例:神戸税関事件とスエレス号事件
- 種別:
- 論文(学術誌に収録されたもの)
- 単著/共著の別:
- 単著
- 発行年月:
- 2000年3月
- 発表誌:
- 『東アジア近代史』(東アジア近代史学会)第3号
- ISBN:
- 9784843300343
- ページ数:
- 67―83頁(17頁)
概要
1.論文の要旨
本稿は、「東アジア近代史学会」第4回研究大会におけるシンポジウム関連報告「明治前期における日本の国家間賠償と近代国際法」を、文章化したものである。
江戸時代の末から明治にかけて、日本に生じた「近代国際法の受容」という現象を考へる場合、単純に、外国の国際法の教科書が邦訳されたり、大学に国際法の講座が設置されたりした年代を調査するだけでは不十分である。それよりも、現実の国際紛争に対して、政府が国際法をどのやうに適用したかを詳しく検討することで、初めて「日本における国際法の受容」の実態が明かになるといへる。本稿ではこのやうな見地から、1873(明治6)年に発生した「神戸税関事件」と、1895(明治28)年に発生した「スエレス号事件」といふ2つの国際紛争を取り上げ、それらに対する日本政府の対応を分析することによつて、当時の人々が、国際法の運用にどの程度まで習熟してゐたかを解明することにする。
神戸税関事件とは、神戸港に入港したドイツ商船が、現地に居留するドイツ商人が所有する艀船(はしけ)を使つて、船荷の陸揚げをしようとしたところ、神戸税関が港内規則を理由に、これを差し止めた事件である。現地のドイツ領事、さらに東京のドイツ公使が日本政府に抗議した結果、日本政府は、税関の措置が国際法に違反するものであつたことを公式に認め、税関が独自に定めた港内規則を撤回するとともに、ドイツ商人が被つた損害を賠償した。
スエレス号事件は、日清戦争直後の台湾において、日本への割譲に抵抗する勢力が叛乱を起し、これを日本軍が武力で鎮圧する過程で発生した事件である。日本軍の鎮圧作戦が大詰めを迎へた1895年10月20日、台湾南部の港からは、叛乱に加はつた多数の兵士が、イギリス汽船に便乗して大陸へ逃亡しようとした。日本海軍の軍艦八重山は、艦隊司令長官の命をうけ、出航して公海上にあつたこのイギリス汽船を不法に臨検し、十数時間に亘つて拘束する。この措置に対して、イギリス公使が日本政府に厳重に抗議を申し入れたため、日本側は八重山の措置が不適当であつたとして、艦隊の司令長官と八重山の艦長を罷免したほか、イギリス政府に対して公式に陳謝し、損害の賠償を申し出た。
この二つの事件は、ともに日本政府の国際違法行為が外交問題となつたものであるが、双方に対して日本政府は、国際法の原則を忠実に適用し、その解決を図つてゐる。ただし前者については、国際法の適用に関して国内(大蔵省)から有力な反対が出てゐるのに対し、後者については、そのやうな動きは生じてゐない。
たつた二例ではあるが、この両者を比較することによつて、明治期の日本政府が、近代国際法を習得し、それを現実の国際紛争に適用する技術を会得していく過程の一端が、朧げながらも窺へるやうに思はれる。
2.論文の目次
- はじめに
- 1 国家責任の成立と解除
- 2 神戸税関事件
- (1)事件の発生
- (2)本格的交渉の開始
- (3)国際違法行為の確認
- (4)小括
- 3 スエレス号事件
- (1)事件の発生
- (2)交渉の開始
- (3)国際違法行為の確認
- (4)小括
- 4 比較と考察
- をはりに
正誤表・補足情報
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